君の隣
なつ「お疲れ様です。」
最後の客(高杉)の部屋を終え、私は、化粧を拭き取り、帰り支度をしていた。
すると、女将さんが慌てて、呼びに来た。
女将「おなつちゃん!申し訳ないのだけど、高杉様のお座敷に戻って欲しいの!」
なつ「え?・・・でも、私はここまでという約束ですよね?」
女将「それは承知してるよ。私も、秋風は、他の芸妓と違うからって言ったんやけど、どうしてもって言うの。もし、出さなかったら、別の店に馴染みを変えるって・・・。あのお方は、大口の上客で・・・。」
やっぱり、ワガママ男だ!
なつ「わかりました。行かせてもらいます。」
女将「ありがとう!その・・・。」
私の貞操の心配をしてくれてるのね。
なつ「酒を飲ませて酔い潰れさせます。お酒をお願いします。」
女将「わかった!」
私は、薄く化粧をし直して、部屋に戻った。
なつ「失礼します。」
高杉「あぁ。入れ。」
なつ「お呼び頂いてありがとうございます!高・杉・さ・ま!」
高杉「おい。お前、なつだろ?」
なつ「そうだけど?それが?」
高杉「お前、芸妓だったのか?でも、お前を見たのは初めてだ・・・。こんな、高物の客には付いた事がないとかか?まぁ、あの三味線じゃ無理か・・・くくくっ。」
高杉がニヤリと笑う。
なつ「はぁ・・・。私は、芸妓さんじゃない。女将さんと知り合いで、今日だけ助っ人で来ただけ。本来なら、こうして、部屋にも来ない!」
高杉「そうか・・・。」
高杉は少し安堵したような顔をした。
なつ「もう帰って良い?どうせ、正体を暴きたかっただけでしょう?」
高杉「それもある。」
なつ「それもって・・・。他に何が?」
高杉「お前と、もう少し話したかっただけ。」
なつ「はぁ?いつも・・・って、いつもは喧嘩ばかりか・・・。」
高杉「お前は、何故、あの塾に行く?女には面白くないだろう?」
なつ「高杉、あのね?それは偏見というもの。おなごだって、政(まつりごと)に関わりたいって思う人もいる。」
高杉「実際には、関われない。」
なつ「でも、先生は、志を持てって言うでしょう?私の夢は、日本を良くしたい!おなごだって、政に参加して、どんどん、おなごが、出来ることを増やしたい!それを、私が証明する!」
高杉「それはちと無理があるだろう?」
なつ「やってみないとわからないよ?確かに、男と女では、違うし、力も適わないけど、他にも色々と勝ることもある!」
高杉「ぷっ。あはははは!変な女っ!」
なつ「言っておくけど高杉も十分に変だからね?」
高杉「お前に言われたくない!」
そして、酒を酌み交わす。