君の隣
私は、京の長州藩邸に着いた。
なつ「失礼します!私は、隠密隊隊長なつです。高杉様はおいででしょうか?」
見張り「どうぞ。こちらです。」
通された先・・・。
久坂「おなつちゃん!」
桂「やっぱり来たか・・・。」
なつ「皆さん、お久しぶりです。」
稔麿「おなつちゃん。久しぶり。元気だった?」
なつ「はい!稔麿さんは、幕府との関係を作ってらっしゃるとか・・・。」
稔麿「うん。そう。でも情勢は厳しい。高杉さんも・・・。」
高杉「おぉ!なつ!お前も来たのか?ははっ!」
ギュッと後ろから抱きしめてくる。
お酒臭い・・・。
なつ「高杉・・・。大丈夫?また、お酒飲んでるの?」
高杉「悪いか?そうだ!なつ!手伝え!」
なつ「何を?」
高杉「俺は、この忠義を見せるため、薩摩藩主、島津久光を暗殺する!」
なつ「はぁ!?なんでそうなる?」
高杉「俺が君命を必死で遂行しようとしても怠ると言う。ならば、薩摩の藩主を暗殺したらわかってもらえる!」
なつ「バカなこと言わないで!暗殺など無謀すぎ!」
高杉「俺は、武士だぞ!それで、命を落としても悔いはない!」
なつ「何を言ってるの!・・・っ。」
私は、ギュッと高杉を抱きしめた。
いつの間にか、皆は、部屋から出て、私達だけになっていた。
なつ「高杉・・・。帰ろう?」
私は、毎日毎日、説得した。
高杉は、私を、片時も離さず、時に、私を抱きしめて、涙を流していた。
他の人達からも、強く薦められ、高杉は帰ることにした。
3月19日に萩に高杉と一緒に帰ると、高杉は野山獄に投じられた。
新知160石、全ての地位をを没収された。
なつ「殿!これは、あまりにも、重すぎます!高杉殿は、誤解を受けています!」
世子「しかしながら、周りの者の目もある。折を見て出す。」
なつ「・・・ありがとうございます。」
私は、野山獄に忍び込んだ。
何だか懐かしい。
前は、松陰先生だった。
あ!そうだ!
私は、高杉が、投じられている獄の梁の上にいた。
ここは、変わってないなぁ。
私は、高杉が座っているすぐ後ろに飛び降りて、高杉の口を塞いだ。
高杉「ふぐっ!(何奴!?)」
なつ「高杉 晋作様でいらっしゃいますね?」
高杉は、コクコクと首を縦に頷く。
なつ「私は、情報屋のなつと申します。」
高杉「っ!」
そっと、口元の手を退けると、高杉は、くるりと、私の方を向くと、抱きしめてきた。
高杉「お前にしてやられた。」
何のこと?
私が、何の事かわかっていないと、
高杉「お前に従って、帰ってきたら、投獄だ。しかも、地位も全て無くなった。」
なつ「嫌だった?」
高杉「ふっ。嫌に決まってるだろう!くくくっ。」
なつ「そっか。ごっめーん。」
高杉「全く悪く思っていないな。」
なつ「殿に直談判したよ。すぐ出れるよ。まぁ。松陰先生と同じ、家で幽閉になるかもね。」
高杉「それは、良いことか?」
高杉は、笑いながら言う。
なつ「ここ懐かしい。」
高杉「先生か?」
なつ「うん。初めて先生と会った場所なんだ。」
私は、先生との出会いを、高杉に聞かせた。
高杉「先生も驚いただろう?いきなり、口を塞がれて・・・。」
なつ「だろうね。」
私達は、手を繋ぎ、座って、話していた。
高杉は、あの時の先生のように、読書や詩を作り、そして、先生の書の編集を始めた。
なつ「お父上も、随分、動いていらっしゃるよ。」
高杉「そうか・・・。」
なつ「高杉・・・。大丈夫。すぐ、出れるよ。」
時勢は、激しく動いていたが、ここは、落ち着いた空間だった。
私は、自分の任を終えてから、毎日、野山獄に忍びに入り、高杉と話したり、眠った。
そんな時・・・。
周布様が野山獄に来て、叫んだ。
そして、謹慎。藩政の中心から外される。
周布様も高杉も藩政から退き、進発派の勢いが止まらなくなり、6月4日に殿が世子様に京へ兵を出すようにと命を下した。
私は、高杉に、そのことを話していた。
高杉「そうか・・・。」
なつ「高杉・・・。嫌な予感がするの・・・。凄く・・・。」
高杉「こればかりは仕方ない・・・。」
6月5日。
【池田屋事件】が起こった。
高杉が家の座敷牢に移る少し前に、それを聞いた。
なつ「嘘・・・。稔麿さんが?そんな・・・。」
京で、京都守護職の新選組が池田屋に討ち入りしたとの事だった。
他にも、杉山さん・・・。先生の友人だった宮部さんら7人が斬られた。
20人以上捕縛。
許せない・・・。
私は、高杉の所へ行った。
新選組といえば、人斬り集団だ。隊長格は、剣豪ぞろいと聞く。
私は、仇討ちに行く。
でも、最後に高杉に会いたかった。
私は、池田屋事件の事を高杉に話した。
高杉「そんな・・・っ。」
高杉は、顔を手で覆った。
私は、高杉に抱きついた。
そっと顔を上げた高杉の唇に口付けをした。
そして、ゆっくり離れた。
なつ「もう行くね。」
私が何をするか気付いた高杉は、私の腕を掴んだ。
高杉「やめろっ!危なすぎる!お前が、仇討ちに行ったら、幕府に刀を向けたことになる。」
なつ「ならないよ・・・。新選組は・・・。私の好敵手だった人達がいるところ。決着を着けに行くだけ・・・。お願い・・・。行かせて?」
高杉「嫌だ!今!お前までいなくなったら俺は・・・っ。」
私は、高杉を抱きしめて、もう一度、口付けた。
なつ「もし、いなくなったとしても、隠密隊には、高杉について行けって教えてる。力になってくれる・・・。」
高杉「そういう意味じゃない!俺は・・・っ。」
なつ「ねぇ。高杉!もうすぐ赤子が産まれるんでしょ?そんな人が、何をいうの!ごめんね。口付けして・・・。また会えたら・・・。口付けて欲しいな・・・。」
私は、牢をでる前に高杉を見ると、今までで一番悲しそうな顔をしていた。