君の隣
私は、京を出た。その大坂との境目・・・。
誰かいる・・・。
男も気付いて、こちらを見て近づいてきた。
この人は・・・。
なつ「沖田さん!?」
どうして?私を捕まえに来た?
私が、刀に手をかけると、沖田さんも手を刀に触れる。
沖田「お礼を言いたかったんです。コレの。」
沖田さんが、刀を撫でた。
なつ「それは良かった。沖田さん・・・。顔つき変わりましたね・・・。」
なんだか、前の無邪気さはあるけど・・・。不気味な感じがある。黒い部分があるというのかも・・・。
沖田さんにそう言うとクスクス笑って、
沖田「それは、あなたもですよ?おなつさん・・・。綺麗になったね?」
なつ「はぁ?」
沖田「私、京に来て、恋仲が出来たんですよ?」
なつ「へ・・へぇ・・・。」
何故、私は、友人の仇と恋の話をしているの?
沖田「大好きでした。でも・・・。別れた。」
なつ「へぇ。」
私は、相槌を打つ。
沖田「そんな時に、あなたをここ、京で見かけたんです。」
なつ「そうでしたか・・・。」
忙しく動き回ってたからか、わからない。
沖田「何度か、江戸の試衞館を訪ねてくれたんでしょう?」
なつ「はい。決着をつけようと思って。」
沖田「今からつけましょうか?」
なつ「え?良いんですか?」
沖田「その代わり・・・。私が、勝ったら、長州藩を抜けて、新選組に来てくれませんか?」
なつ「仇の所に行けと?」
沖田「はい。それと・・・あなたを貰います。」
ニッコリ笑って沖田さんはそう言った。
は?どういう意味?私が不思議そうな顔をしていると・・・。
沖田「抱かせろって言ってるんですよ?」
この人って、こんな人だったっけ?
でも・・・。私だって、生半可な気持ちで来たんじゃない。
九一さんも、久坂さんも熊さんも・・・。皆、コイツ等が、池田屋を襲わなければ、皆、戦に参加しなかった。稔麿さんだって、死なずに済んだ。
私の心は決まってる。
なつ「良いですよ。」
そう言うと、沖田さんは黒い笑みを浮かべた。
そして、向かい合った。
刀を抜き、月明かりで、刃が、鋭く光る。
なつ「やぁ!」
カキン!カキン!
ギリギリ。
ドカッ。
私は、沖田さんの腹を蹴った。
沖田「う゛っ!」
そこを、狙う。
シュ!
なつ「!」
刃がスレスレの所を通った。
誘ってたのか。
体勢を立て直した。
すると、
沖田「やぁ!」
ビュン!
カキン!
シュ!
カンッ!
もう一つ来る!
ビュン。
やっぱり・・・。
突きが来た。
沖田 総司の得意技、三段突き。
なつ「はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。」
沖田「はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。よく全て、避けましたね。はぁ・・・。はぁ・・・。」
なつ「あなたの『それ』は、有名です。」
そして、しばらく、私達は、何度も刀を交わらせて、斬り合う。
お互いに細かい刀傷を作り、お互いの刃がボロボロになって、いよいよ紙も切れなくなる位になった。
沖田「コレじゃあ、決着が着かないね。」
なつ「そうですね。」
沖田「今日は、この辺にしておきましょうか?」
なつ「そうですね。」
少し、離れて、刀をしまった。
そして、何故か、笑みがこぼれた。
沖田「ふふっ。ははははっ。」
なつ「ふふっ。あはははっ。」
沖田「やっぱり、おなつさんは強いね!おなごと互角とか、悔しい。」
なつ「沖田さんも凄く強くなってるし!流石!新選組の助勤ですね。」
沖田「鍛練してますからねぇ。」
なつ「私も!」
すると沖田さんは、大きな石の上に座る。
そして、ポンポンと自分の横に座れと言うように、地面を叩いた。
私が、腰を下ろすと、沖田さんは、懐から、金平糖と取り出して、私にくれた。
なつ「ありがとうございます。」
口の中に放り込む。
すると沖田さんは、にっこり笑って、
沖田「やっぱり、好いてしまいました。」
と、言った。
好いてしまった?って、何が?金平糖?
何のことかわからず、沖田さんを見つめていると、沖田さんは、真剣な顔つきになった。
なつ「沖田さん?」
沖田「おなつさん。私は、あなたを好いているようです。」
え・・・?
沖田さんが、私を好いている?
なつ「いや・・・。何かの間違い・・・。」
沖田「では、ないですよ。」
でも、どうして?
ほとんど、ちゃんと、話もしたこと無いのに。
沖田さんは、私が言いたかったことを察したのか、答えた。
沖田「初めて、会ったときに気に入ったと言ったでしょう?」
そういえば、言ってた。
私が頷くと、
嬉しそうに、沖田さんも頷く。
沖田「あれからずっと、会いたいと思ってた。でも、京に来て、恋仲が出来て、忘れてました。」
なつ「そんなものだと思います。」
沖田「そして・・・。恋仲のおなごと別れて、しばらく経ったとき、あなたを市中で見かけたんです。」
なつ「気づかなかった・・・。」
不覚だ。
沖田「その日から、ずっと、頭にあなたがいるんです。いるかわからないのに、姿を探したり・・・。池田屋の時も、どうか、いませんようにって・・・。思ってたり・・・。これは、私のワガママです。長州藩を抜けて、私と恋仲になりませんか?私は、あなたを好いています。」
あまりにも、真剣な顔つきの沖田さん。
本気なんだ。
でも・・・。私は・・・。
なつ「ごめんなさい・・・。私は・・・。好いてる人がいます。それに・・・。藩を裏切ることは、私には、出来ません。」
沖田さんは、少し寂しそうな顔つきになり、頷いた。
沖田「わかってた・・・。じゃあ、今度、会うときは、決着をつけよう!」
なつ「はい。あの・・・。こんな、私を好いてくれてありがとうございます。」
そう言うと、沖田さんは、
沖田「いいえ。」
と言って笑った。
そして、沖田さんと別れて、萩に戻った。