君の隣
逃避行
私達は、道後温泉に来ていた。
なつ「あーっ!良い湯だぁ!」
久々の温泉に幸せを噛みしめる。
「お嬢ちゃん。どこの人だい?」
ニヤニヤしながらオジサンが近づいてくる。
やっぱり、そうなるか・・・。
江戸や京では、最近、男女別の風呂場が決まりとなってきているが、田舎では、まだまだ混浴がほとんどだ。
なつ「長州です。」
「そうかい。一人かい?」
なつ「いえ、連れが・・・。」
「俺の妻に何か用か?」
振り向くと、高杉が眉間に深い皺を作り、オジサンを睨んでいる。
オジサンは、そそくさと出て行った。
高杉は、私を睨むと、
高杉「本当に、お前は尻軽だな。あんな、くそじじいにも肌を見せて色目か?」
なつ「それ・・・。久々に聞いた!庶民の混浴だから仕方ないでしょ!庶民の風呂なんて入りたくないって言ってたのは誰よ!」
高杉「混浴と聞いて、おまえが襲われてたら、俺が、おなご一人も守れない男ということになるだろうが。」
なつ「心配で来てくれたの?」
少し、茶化しながら言うと、高杉は、
高杉「断じて違う!」
と、ぷいとそっぽを向く。
きっと、心配で来てくれたんだ。
なつ「ありがとう。」
私は、礼を言って出ようとした。
すると、高杉が、私の手首を掴み引っ張った。
なつ「キャッ!」
よろけて、足が滑り・・・。
バッシャーーン。
高杉「ブハッ!」
高杉の上に崩れ落ちた私。
高杉を温泉に沈めた。
高杉「ゲホッ。ゲホッ。殺す気か!?」
なつ「ゲホッ。ゲホッ。高杉が、いきなり、私の手を・・・っ。」
私達は、抱き合っている状態だった。
至近距離に顔があり、裸で抱き合い、私は、高杉に跨がっている状態だ。
これは、マズい・・・。
なつ「ご・・・っ・・・ごめ・・・んっ・・・。」
高杉に頭の後ろを押さえられて、口付けされた。
少し、離れて、見つめ合う。
もうダメだ・・・。
彼が欲しい・・・。
どちらともなく、顔を近づけて、口づける。
何度も、何度も、口づける。
すると、高杉は、私の首筋に顔をうずめて、唇を這わす。
ピクッと身体が揺れる。
肩にも口付けをされて、腰を撫でられる。
頭の芯が甘く痺れて、力が抜ける。
すると、脱衣場で人の声がした。
私は、バッと離れて、風呂を出た。
なつ「はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。」
まだ、心の臓が、ドキドキと早鐘を打っている。
身体も熱い。
私は、高杉と顔を合わせずらくて、宿の縁側にいた。
まだ、4月下旬。夜は、肌寒い。
「風邪をひくぞ?」
振り向くと、高杉が立っていた。
なつ「驚いた!高杉の気配だけは、わからない。」
高杉「お前の実力なんて、そんなものだ。」
なつ「なにそれ。」
高杉「部屋に戻るぞ。」
私達は夫婦としているため、同じ部屋だ。
さっきあんあことがあったばかりで緊張する。
部屋に戻ると、布団が、二つ並んでいた。
ゴクリ。
喉を鳴らすと、
高杉「ぷっ。・・・くくくっ。」
高杉が、肩を震わせ笑っていた。
今の聞こえてたの!?
恥ずかしさに、俯いていると、高杉に包まれた。
身体が固まる。
すると、頭の上で、高杉の声がした。
高杉「俺達・・・。初めてではないのに何故、そんなに固くなってる?」
なつ「そんな事・・・っ。」
反論しようとしたら、口付けられる。
なつ「っ・・・。」
ダメだと、頭では、わかってるのに、身体と心が、高杉を求めてる。
私は、高杉の背中に腕を回した。
水が、決壊したように、お互い求め合った。
今までの愛おしい気持ちを全て、高杉にぶつけた。
やっぱり、私は、高杉が好き・・・。
触れてしまった。
もう、止められないし、止めたくない・・・。
高杉「なつ・・・。お前が、どうしようもない位に愛おしい。これからは、俺の女でいろ・・・。」
なつ「それって、妾?」
高杉「あぁ。側室だな。」
なつ「何か、良い風に言ってる!」
高杉「お前とは離れるつもりがない。なら、こうするのが良い。そうだろ?」
なつ「うん・・・。私は、本妻には向いてない。家を守るより、こうやって、高杉について生きていきたい・・・。」
私達は、お互いに顔を寄せ唇を重ねた。
数年ぶりに、高杉と肌を重ねた。
今宵は、今までで一番、幸せな夜だった。