君の隣
ある時に、二人の浪士が、高杉を訪ねてきていた。
一人は、久留米藩の古松という男、そして、もう一人は、水戸藩の斉藤という男だ。
この二人は、薩摩の遣いで来たという。
薩摩と手を組もうという内容のものだ。
朝敵となった我が藩主の復権も夢ではない。
それには、今、力のある薩摩と手を組むべきだと、古松殿と斉藤殿は熱弁している。
高杉は、黙ってその話を聞いている。
私はと言うと、隠密隊らしく?天井裏でこの話を聞いていた。
薩摩は、私達、長州にとって、敵以外の何者でもない。
確かに、殿の朝敵を消して復権出来るのは、旨い話だが、何か気になる。
西郷の密命を受けて来たと言うが、こんな一脱藩浪士にそんな重大な事を頼むだろうか・・・。
これにホイホイ乗ってしまったら、長州の立場は、最初から、薩摩の下ということになる。
薩摩に、本気で、手を組む気持ちがあるなら、正式な身分の使者が来るはず。
様子見ということかな。
私は、警戒が必要と判断した。
高杉はどうなんだろう?
二人の使者が帰った後、高杉が、天井を見てきて、
高杉「聞いてたんだろ?降りてこい。」
と手招きした。
何故か、高杉だけには、気配を感じ取られてしまう。
隠密隊失格だ。
「どう思う?」そう、高杉は聞いてきた。
私は、思った通り告げる。
すると、高杉は、腕を組み、
高杉「だよな。俺も、そう思う。」
どうやら、私達は、同じ考えだったようだ。
しかし、殿の復権という事を目の前に出され、桂さんがこの話に乗ってしまった。
桂さんを説得に行ったのが、以前に会った、坂本様だった。
なつ「高杉。長州に帰ってきてた桂さんが、例の話に乗ってしまったって・・・。下関で、西郷と会うらしい・・・。」
高杉「あの桂さんでも、冷静さを無くしたか・・・。薩摩の者が、下関に現れる筈がない。」
私達の予見は当たり、桂さんは、二週間も待たされた挙げ句、西郷は遂に、下関に現れなかった。
桂さんは、恥をかかされた。
しかし、話を持ってきたのが、薩摩の正式な身分の者で無いため文句が言えない。
しかし、桂さんは、それだけでは終わらなかった。
朝敵の汚名を取り除く戦のため、武器不足を補いたかった我が藩。
しかし、慶応元年5月より、エゲレス、フランス、メリケン、オランダは、長州との密貿易を禁止していた。
高杉が、考えたエゲレスとの下関開港も実現出来なかった為、桂さんは、坂本様にある提案をした。
「武器を購入したいが、長州の名前では買えない。だから、薩摩の名前を貸して欲しいと・・・。」
金は払うから、代わりに武器を買ってくれということだ。
薩摩藩は、その提案を聞き入れた。
その後、銃や艦隊などを購入し、軍備は充実したものとなった。