明日晴れるといいね!
12
 海が近いのか潮の香りを美和は感じた。やがて波音も聞こえてきたような気がした。
 バイクは路肩の少し広くなった脇に止まり、

 「着いたで。」
バイクをおりた二人は砂浜に向かうセメンの階段を降りていった。

バイクで聞いた波音が今度は確かに二人を迎えてくれた。
美和には砂を踏む感触が心地よかった。
夜の海とは真っ暗と思っていた美和にとって月明かりが波で運ばれてくる様子はそれ自体幻想的なものであり、夜風が美和の身も心も優しく包み込んでいた。

涼子は波打ち際に腰を下ろした。その横に美和も並んで座った。二人は黙ったまま海を見つめていた。時折吹く潮風が二人の髪を撫でてゆく。

「あのさ、こうして海に向かって座ってると、なんだか一人この世界に取り残されたって気分になるんだな。」
美和もそんな気がしてた。何処と無く不安な気持ちになっていた。

「実は私歌手になりたいんだ。いまさライブで歌わないかって話があるんだけど迷ってんだ」
と涼子がふいに切り出した。

「どうしてですか」
 「まあ自分に自信が無いって言うか、本当に人に聞かせる歌、うたえるんだろうかなんて柄にも無くつい思ちゃってさ」

 「私は涼子さんの歌聞いて感動しました。誰でも不安はあるけど、でも自分の気持ちを素直に表現する涼子さんのスタンス通せばいいんじゃないですか。」

 「ありがとう。だよね、なんか私のほうが励まされちゃったな」
 そういって涼子は膝を抱え込んだ。

 決して強くない同世代の一人の女性が美和の前にいた。誰しも悩みを抱えて生きているのである。

 寄せては返す波音が心地よく二人の心に入り込んでくる。沖合いを行く船影が月明かりでかすかにゆれていた。
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