これも一つの愛
『短編』これも一つの愛
日が暮れるのがすっかりと早くなった11月初旬。人々は冬に向けた準備を着々と進め始める頃、学校近くにある高台の公園のベンチに静かに座る。
やはり11月にもなると寒く水玉のミニスカートだと足元が冷える。
「はぁ〜っ」
毛糸の手袋を着けているとはいえ手も冷たくなっていく。手袋に息を吐いて暖めようとするものの、殆ど意味をなさず直ぐに冷え切ってしまう。
「…またここに来ちゃったなぁ。本当は…暖かい家に帰ってココアをママに作ってもらって……ゆっくりテレビ見たりマンガ読んだり…………。でも私にはそんな資格なんてこれっぽっちも無い。人間失格だから…」
何故なら……
私はどうしても手に入れなければならないものがあるから…
「……ゆう……分かってくれるといいな……」
こんな事したらダメなのもわかってるし、死んでしまったら元には戻せない。
世の中には死者蘇生なんていう言葉も存在するけどそんなの迷信に過ぎない。
だから私は人間失格…
そこまでして手にしたい物があるから……
土曜日の朝、今日は土曜日なので学校はお休み。クラスの殆どの人が心待ちにしている連休。そして私が嫌いな連休…
「ゆうに会えない日ならお休みなんて要らないのに…」
学校が休みって事は何よりも最愛の人に会えないと言う事。正直辛い。
会いたい。
ゆうに会いたいよ……
「真莉奈ちゃーん!お友達が遊びに来てるわよー?」
友達…?
私には友達なんていない。作りたくも無い。無理に気遣いをして仲間意識を高めたり、集団行動をするなんて真っ平御免よっ。そんな事するなら死んだ方がマシ。
「真莉奈ちゃん聞いてる〜!!?」
「はーい!今行くから待ってもらっててー!?」
友達がこの家に遊びに来たのは以前はあった。一緒にお人形さん遊びをしたりお飯事をしたり。
楽しくなかったと言ったら嘘になる。正直楽しかった。
けど『あの事件』からは遊んでいない。裏切り、妬み、後悔……
そしてお互いを傷付けて破裂する。だったらそんな人始めから作らなければいい。どんな時も私の側に居てくれた彼を除いては……
「何方様〜?」
階段を颯爽と掛け降りて玄関へと向かう。昔から身軽な方で体育の成績がそこそこいいのは私の小さな自慢でもある。
「こんにちは。……ごめんね、急に押しかけちゃって……」
「ゆう…?」
そこに立っていたのは黒い無地のトレーナーを着て、暗めのジーンズとシンプルな服装でやって来たゆうと呼ばれた少年の姿であった。
「…どうしたの…?土曜日でお休みなのに…?」
会えた嬉しさと緊張で上手く喋れないよ…どうしよう…!?
「この前、僕の誕生日会をやってくれたでしょ?そのお礼をしたいなぁって思って遊びに来たんだ」
「あれは私が勝手にやった事で別に…見返りが欲しいとかそんなんじゃ無いよ!?」
ゆうの誕生日が10月31日なのは知っていた。サプライズで誕生日がやりたくて、企画して、近くの公園という場所はあまり良く無い場所でも一生懸命誕生日をお祝いした。
何よりもゆうの喜ぶ姿が見たかった…
ケーキも手作りして…形は凄く悪かったけど、ゆうは「おいしい」って言ってくれた。私の一番の思い出……
「うん、でもね、僕は真莉奈ちゃんにお礼がしたい。僕は真莉奈ちゃんが大好きだから。…って何だか恥ずかしいよね?」
「……っ」
言葉が出て来ない…
嬉しくて涙が出て来そう…
……片想いじゃ無かったんだ……嬉しい…
「真莉奈ちゃん…?もしかして泣いてる…?」
「…だっ……だひじょうふっ……」
限界だった…
そのまま私は泣きじゃくってしまいその場に座り込んで暫く動くことが出来なかった…
幸せな生活、このまま二人はカレカノとして新たなスタートを切れるはずだった…
『あの日』が訪れるまでは…
「///ゆう……お願いがあるの……///」
「どうしたの?そんなに頬を染めて……?」
「茉莉奈はゆうの事が好き、だからずっと一緒にいたい……だからお願い……茉莉奈の物になって……////」
「茉莉奈ちゃん、危ないよ?包丁はオトナの人が近くにいないと使っちゃだめなんだよ?」
「ゆうは優しいね。…好き、……だからお願い……茉莉奈の為に死んで?茉莉奈ね、一生ゆうを大事にするから…」
包丁で彼を刺そうとして走って来る途中に一瞬だけ躊躇した。殺せば彼は自分のもの。でも彼は動かなくなる。
そして私は覚悟を決めた。
「んぐっ……!!」
「私がやった事はこれでよかったんだよね……?だってゆうを自分の物にしたいと言う気持ちが抑えきれなくて殺して自分の物にしようとしたんだよ…?……でも結局躊躇して自ら首を刺して死んでしまった……」
それでも……
「それでも私はゆうの事を……」
アイシテル…