卒業アルバム
存在証明

生徒である君は事あるごとに僕に話しかけた。親の愚痴や進路の不安、恋愛観にタレントのことまで。担任でもないのになぜ僕なのか常に疑問だったが、君の笑顔を見ればそんなことどうでもよく感じた。


いつだったか、君に問いたことがある。なんでいつも僕に話しかけるのか、なにもいいことなんかないのに不思議だ、と。その質問に君は笑ってこう答えた。先生と話すことに理由が必要ですか?損得感情は必要ですか?


同級生から僕のことがすきなのかと尋ねられていたことを、僕は知っている。そしてそれに笑って、そんなことないと答えていたことも。それを聞いたとき、チクリと痛んだ心には気づかないふりをした。








そして今日は、君の卒業式。式の途中、一番前に座る君は長い長い祝辞に飽き居眠りをしていた。授業中ウトウトしている君は決して珍しくなかったけれど、そんな姿を見れるのは今日が最後だと思うと切なくなった。

笑った君、泣いた君、一生懸命な君、好きなことに夢中になっている君、先生!と駆け寄ってくる君。3年間の思い出が走馬灯のように駆け抜ける。思いを馳せているうちに式は終わった。








「先生!!」
笑顔の君が駆け寄ってくる。これも見納めかと思うと泣きそうになった。少し目が赤い。泣かないと豪語していたが結局泣いてしまったのだろうか。


「卒業アルバム、書いてください。」

「ああ、もちろん。」

僕は君に思いを伝えるつもりは毛頭ない。だけど君の幸せを願う権利はあるだろう?だから僕はここに願いを書く。有りっ丈の思いを込めて。




『自分を大切にして、その二本の腕で抱きしめるべき人を探してください』


【完】

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