狂気前夜
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全てを書きつけましょう。僕の体に射精を起こさせる奇怪な夢は、いつもみな大同小異でした。それは見知らぬ者と交合するのです。それは正常な交合ではありません。その者は分娩時に取る恰好を取って、大森の家の僕のベッドの上と覚しい所に寝ています。その者は両手で僕の髪の毛を掴んで、僕の顔をそれの[そけいぶ]鼠蹊部に押しつけています。僕は抵抗せずそこに顔を埋めます。段々そこに液状の物が滲みだし、見る見るそれが垂れて行きます。僕はそれを思い切り吸い込みます。喉につかえるほど粘性の高いその物質は、味覚に極めて苦い。後から後から滲んできてベッドカバーに付きそうなので、一心に吸い続けるが、口中に粘ついて飲み込めない。何ぞ変な臭いが気になり出して少し顔を離してみる。よくよく見ると今まで口を付けていた所は、熟し過ぎたメロンの断ち割りのように輪郭が崩れている。そう見るや、今までの臭いがただの臭いでは無くて、耐えがたい動物の死臭のように感じられてくる。僕は極度に興奮して、この世の物でない物の持ち主を確かめるべく、顔を動かそうともがきます。ところがその者は僕の頭を髪の毛でもって押さえつけ、両脚で僕の顔を締めつけるので、身動きが取れません。何とかその者の顔を見届けようと目を上げる。眼前の小丘を越えて見えるのは、カーテンの間より忍び込む弱い光にぼんやりと浮き出た象牙彫刻のような、高く盛り上がる乳房で、その向こうにある顔はそれらに遮られて見えない。僕が目をもっと高い位置に持って行こうとするのに合わせて、その者は腰を浮かして抵抗します。そしていよいよ両脚が締めにかかります。僕はあきらめます。また吸引し始めます。僕の興奮は激しい動悸になり、息が出来ません。目眩で何も見えなくなった中、ひたすら[にが]苦みと悪臭の虜になっています。僕は憤然と自分の性器を掴み、顔をそこに挟まれ、窒息しつつ錯乱した状態で、射精します。同時に、下半身の感覚を奪われる程の痙攣で目を覚ますのです。