狂気前夜
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何度か英語で語り合った事があるとは云え、普段、我々のコミュニケーションの媒体は日本語だったのですから、僕から貴方への最初にして最後の手紙は、仮名で書かれるのが、或いは自然かもしれません。しかし、僕が今掘り起こそうとしている、僕の心の内奥に秘められた、マグマの様にドロドロとして僕自身にも明確には定義も理解もできない何物かに、言語的な輪郭を与え且つそれを貴方に伝える手段として、仮名を用いる事は、僕の能力を越えます。僕は幼時より、自分の内側にある思想を、いつもフランス語か英語かであらわして来ました。日本語は僕の言語ではありません。僕がここに書こうとしている事柄も、僕の最も内側にある思想です:定義不能・理解不能であっても。