都合のわるい女
え、と俺は動きを止める。


ゆっくりと一つ瞬きをして、吉岡を見る。


吉岡は、やけに落ち着いた大人っぽい表情で俺を見つめ返し、口を開いた。



「俺にタカハシさんのこと悪く言われて、ニシノは怒った。

人前で怒りなんか見せたことない、温厚でお人好しなお前が。

俺、お前のそんな顔見たことないぞ。


それがさ、答えなんじゃねえの?

お前がこれからどうすればいいか、これでよく分かったじゃん」



俺は不覚にもぽかんとしてしまう。


何も言い返せないまま、頭の中でぐるぐると考えを巡らせる。



ワガママ放題で俺を振り回すタカハシ。

明るい笑顔で俺を見上げるタカハシ。



…………そうだ。


俺はーーー




「………ちょっと、行ってくる!」



「おう。健闘を祈る」




吉岡の微笑みに見送られ、俺は理学部棟を飛び出した。




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