都合のわるい女







本気の全力疾走なんて、いつぶりだ?


高校の体育だって、本気で走ったことなんて、ない。



そんな俺は、情けなくも、理系の講義棟や研究棟が集まっている辺りを抜けるころには、すでに息切れしていた。


でも、俺は速度を緩めない。


一刻も早く、あいつに会いに行かなきゃ。



呼吸だけじゃなく脇腹まで限界を迎えたころ、文系ゾーンに辿り着いた。


走りながら視線を巡らせ、見慣れた小柄な姿を探す。



きょろきょろしていると、見覚えのある顔に出会った。

タカハシと話しているのを、何度か見たことがある。


「ごめん、ちょっと!」と、迷わず俺は声をかけた。


その女の子は目を見開いて俺を見て、「はい?」と首を傾げる。



「文学部のタカハシと、たまに一緒にいるよね?」


「あ、はい」


「あいつ、今どこにいるかわかる!?」




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