恋する淑女は、会議室で夢を見る
手を引かれながら桐谷専務を目で追っていた真優は
抵抗するように力を入れて立ち止まった。
「専務」
「ちょうどよかった
君にちょっと付き合ってほしいんだ」
「ぁ」
真優が答える前に、白木匡が答えた。
「今日は休日ですが」
「申し訳ないが、緊急でね」
自分達がスーツ姿で仕事中であることを主張するように
桐谷遥人は、両手を軽く広げてみせる。
「労働基準法違反ですよ」
「”緊急” と言ったはずだが」
一歩も引かずに睨み合っている2人の間にいた真優は
右手でそっとマー先輩の腕に触れ、自分の手を離すよう促した。
「わかりました 専務
先輩…私、仕事してきます
すいません」
「真優…君は」
眉をしかめるマー先輩を見上げて
真優はマー先輩だけに聞こえるような小さな声で言った。
「…私 先輩を怒らせちゃったんですね
すいませんでした」
そして
泣き出したいような思いで頭を下げた真優の
口をついて出た言葉は
「さようなら」
だった。
・・・