恋する淑女は、会議室で夢を見る
「どうしてHELPボタンを押さなかったんだ?」
「…別に そういう事態じゃなかったから」
「嘘つけ
今にも涙が溢れそうな顔をしてたじゃないか」
桐谷専務にギロリと見下ろされて
真優はシュンとして俯いた。
「…」
そんな2人を見て、
少し離れたところに立って見守っていた西園寺洸と鈴木翼が
顔を見合わせてクスッと笑う。
結局、真優がするべき緊急な用などなかった。
このホテルは西園寺が所有するホテルグループのひとつである。
仕事の話ついでに3人で食事をしようと来たところに真優たちと出くわしたのだ。
真優が夕食を済ませていると聞くと
真優を連れた3人は最上階にあるバーの、ひと目に付かない奥まったVIP席につき
ワインを傾けながら、鈴木翼が手配した本来メニューにはない食事をはじめた。
「・・・」
窓ガラスを振り返れば
ついさっき見下ろしていた夜景とほとんど変わらない同じ夜景が広がっている。
ここはホテルの最上階。
真優がついさっきまで食事をしていたレストランより更に上にいた。
「これなら食べられるだろう?」
ボンヤリ外を見ている真優の前に
桐谷専務が、トン と置いたものは…
ホワイトチョコレートで出来た器から色とりどりのフルーツとシャーベットが顔を出し
白い皿の上で踊る赤や黄色ソースで描かれたハートたち、というデザートプレートだ。
「! かわいい~」
思わず笑顔になる真優を見て
クスッ っと桐谷専務が笑う。
それから桐谷専務は西園寺洸や鈴木と仕事の話をはじめたが
その内容は真優にはチンプンカンプンだった。
「・・・」
ソムリエが、真優のグラスにもトクトクとワインを注ぐ。