恋する淑女は、会議室で夢を見る
恋は影法師
「あ!! 門が開いた!」
通りかかった車がスピードを緩めた。
「おっ ラッキー」
都内の一角。
そこは高い塀に囲まれている。
普段なら来るものを拒むように閉ざされている黒い門が、ゆっくりと開いた。
その脇を、止まりそうなほどゆっくりと通る車の中の2人は、
初めて目にする門の内側にはどんな邸がそびえ立つのかと、好奇心に満ちた目を見開いて覗き込んだが
「えーー 道と木しか見えないじゃん」
「すっげーな どこまで広いんだ」
左に曲がっていく石畳の道と
その向こうに広がる林のような庭が見えただけだった。
あきらめたように、スピードをあげて車が通り過ぎてゆくと
扉の中に黒いベンツを吸い込んだ門は、ゆっくりと重たい扉を閉じた。
邸の前で静かに止まったベンツから下りた桐谷遥人の秘書、瀬波は、
足早に邸内に入り、出迎えた使用人に
「社長は?」
と聞く。
「旦那さまは執務室にいらっしゃいます」
KIRITANIの社長であり、この邸の旦那さまである桐谷遥己が今日の午後の便でニューヨークから帰ってきた。
まっすぐに執務室に向かい、
「瀬波です 失礼します」
「はい」
返事を聞いて中に入ると、部屋には机に向かっている桐谷遥己の他、
その机を囲むように第一秘書の津川と第二秘書のKelly(ケリー)がいる。
瀬波はまず深く会釈をした。
週明けから1か月間、東京本社は久しぶりに社長を迎えることになる。
「遥人さまは、例の件で西園寺さまと会食中ですので
少し遅れます」
「そう」
遥己は穏やかな微笑みを浮かべて頷いた。
「じゃあ 遥人が戻るまでに
ざっと今の状況を説明してくれるかな」
「はい わかりました」