恋する淑女は、会議室で夢を見る



*...*...*...*...*





―― 余計なこと言ったりしてないかなぁ


週明けの月曜日。
会社へと出勤する道すがら、真優は心の中でうーんと唸った。


昨日、遅い朝に目覚めた真優は
自分がどうやって帰って来たのか、どうしても思い出せなかった。

マー先輩とレストランを出て、ロビーで桐谷専務に会い
専務と一緒にバーに行ったことまではよく覚えている。

桐谷専務が西園寺洸やその秘書と仕事の話をしながら食事をするテーブルで
自分はその会話には加わらず、デザートをつつきながらワインを飲んでいた。

マー先輩から 『すまなかった』と、SNSにメッセージが入り
『こちらこそ』と笑顔で焦っている熊のスタンプを押し、スマートフォンをバッグにしまい込んだ。
込み上げてくるなにかに胸が締め付けられて、その苦しさを紛らわすように
ついついワインを飲み過ぎたらしい…。

問題はその後である。

記憶の中では全てが夢だ。



夢の中では、真優はシンデレラのようなドレスを着て森の中を走って逃げていた。

理由はわからないが、追いかけてくる王子さまはマー先輩で、
逃げて逃げて逃げる途中、氷のように白く輝く馬に乗った別の王子が現れた。

桐谷専務の顔をした氷の王子は、逃げる真優に救いの手を差し伸べ、
真優はマー王子を振り切るように氷の王子の手を握り、白い馬に乗った。

冷たそうな見た目と違って、馬の背中も氷の王子の胸元もとても温かくて
後ろでどんどん小さくなっていくマー王子を見つめながら
どうしてそんなに追いかけるの?どうして私は逃げているんだろう?
訳も分からず悲しくて悲しくて…

それからふいに、場面はガラリと変わりKIRITANIになった。

自動販売機がある休憩コーナーで、専務が囁く…。

『その初恋の記憶の中に このキスも入れたらいい』



夢から目覚めたら、自分のベッドにいた…。
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