恋する淑女は、会議室で夢を見る
車に乗るなりパタッと寝入ってしまった真優に
ひざ掛けをかけて
ユキは困ったように首をかしげた。
バーのあるフロアまでエレベーターで上がり、
開いた扉から飛び込んできた光景は、
桐谷遥人にしがみつく真優と
それを引き剥がそうとする白木匡の姿だった。
職場の同期たちとの飲み会と聞いていたユキには
一体なにがどうなってそうなっているのか、見当もつかない。
ユキに気づいた真優は、うれしそうに飛んできたので
とりあえず挨拶をして真優を連れてその場を離れると、遅れて桐谷遥人だけがエレベーターに乗ってきた。
ユキの腕に掴まって、目をつぶったままユラユラと夢ごこちの真優を呆れたように見下ろす桐谷遥人の様子からして、
また送ってくれようとしたのではないだろうか?と、当たりをつけたユキは
『重ね重ね申し訳ございません』と、とりあえず謝った。
すると、それに対して遥人は
『真優さんは、酒を飲むと いつもこうなのですか?』と、聞いてきた。
そんなことはない。
『信じていただけないかもしれませんが
お嬢さまがこんな風に酔われたのは、
先日送って頂いた時と、今日と二度だけなんです』
と、ユキは答えた。
『お嬢さまは、最近色々とお悩みのことがありまして…
本当に申し訳ございません』
言い訳交じりにまた謝ったが、
白木匡のことで悩んでいることを知っているだけに、ユキは真優を責める気持ちにはなれなかった。
ここ最近、家でも元気がない真優をずっと心配しているのだ。
『今日は思い切り気晴らししてきてくださいね なんて
私が言ってしまったものですから…
あの…
お嬢さまは会社では普通ですか?』
『ええ、がんばってますよ
何の問題もありません』
桐谷遥人はユキにそう答えて、にっこりと微笑んだ。