恋する淑女は、会議室で夢を見る
放っておけばいい…
心配する必要もない…
―― それができるなら
”あなたは一体なんなんですか!”
帰りのリムジンの中、
糸を引くように流れていくネオンを眩しそうに見つめていた桐谷遥人は
静かに瞼を閉じた。
『仮に真優がM&Mの白木と結婚するとして
お前がなんで気にするんだ?
代わりの秘書がいないのか?
確か真優は、働くミセスに憧れるとか言ってたし
辞められて困る心配もないと思うぞ?』
西園寺洸、氷室仁とは幼い頃からの友人だ。
3人で飲んでいた時に真優の話になった。
『あの小生意気な白木が気に入らない』
その時、白木匡と同じようなことを仁にも言われた。
『なんだそれ
お前は真優のなんなんだ
親か?』
『真優ちゃんって妹キャラだしね』
唯一幼い頃から真優を知っている洸が、
もっともらしくそう言ったお陰で
『まぁそういうことだ』
と、結論づけて話は終わった。
洸と仁の人生の辞書には、
愛とか、女を好きになるという甘い言葉がない。
そんな友人たちの影響を受けたという訳ではないだろうが
遥人もまた、そんなことを考えたこともなかった。
それから数日後、瀬波と行ったパーティ会場で
いつものように暇そうに寄ってきた洸の秘書、鈴木翼は、違った。
『あの可愛らしい秘書さんはお連れじゃないんですか』
白木匡と青木真優のその後を聞かれて、
まだ続いているらしいと答えると
『お二人が結婚するとなると、
披露宴では上司としてスピーチをするようですね』
楽しそうにそんなことを言った。
『そんなことはさせない
ぶち壊す』
吐き捨てるように言ってやると
鈴木翼は、
『もしかして
ようやく気がつきましたか』
と言って。クスクスと笑った。
『まぁ大体が気づいた時には手遅れらしいですが…』