恋する淑女は、会議室で夢を見る
 
「さて、 じゃあ そろそろ行くか」

「あ、は・・はいっ」

お金を出そうとした真優を遮って、
 いつものように 氷室先輩は真優のランチ代も払ってくれた。




「さっきの係長の真優への態度
 笑っちゃうほど違ったな」

「え?
 …あぁー はいはい」


相手先の係長は開口一番
『あれぇー青木さん 今日はなんだか可愛いなぁ~』と言って、相好を崩した。


いつもなら何かしか言われた嫌味を、今日は一度も聞くこともなく 
 打ち合わせはかつてないほど、スムーズに済んだ。

「キレイにしていたほうが得だってわかっただろう?」

「まぁ…そうですねー
 でも、なんかイヤです そういうの
 仕事で評価してほしいな」

ブツブツ真優が文句を言うと、氷室先輩がクスッと笑った。



―― 先輩・・・


隣を歩きながら、真優は氷室先輩と自分との間にある数十センチの距離が 少し切なかった。

恋人ならばバーで見かけた時のように
 腰を抱いたり、手を繋いだりするのだろうと ぼんやり思った。


そしてまた、心の中で語り掛けた。


―― あのね 先輩

 先輩が女の人とデートしてたあの時
  私 もしかしたら
   先輩に失恋したのかもしれません

  ちょっとショックだったから


  でもね先輩
  今は先輩と後輩という間柄で
  ‘真優’って呼んでもらえるだけで
   とっても満足です




氷室先輩がふと真優を振り返った。

「まあ がんばれ
 男も女も、身なりも行き届いているほうが仕事も信頼される
 それは本当だ」


「はーい がんばりまーす」

真優は、後輩らしい笑みを浮かべて
ニッコリと笑った。
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