恋する淑女は、会議室で夢を見る
「え?
… あ」
真優はちょうど今日、
4回目のプロジェクトの会議があって 桐谷遥人と顔を合わせたばかりだ。
日本に帰ってきたばかりで、桐谷遥人は何かと忙しいらしい。
最初の挨拶のあの日以来、ずっと会議に出席していなかった。
会議の度に、ユキに言われた通り化粧室でメイクのチェックをしてから 会議に臨んでいた真優としては
ようやく来たなと、身構えたのだが…
「…何にも」
桐谷遥人とは一度だけ目があったが、
その目は何も語っていなかった。
「何も言われなかったの?」
他の男性社員たちのように、変わった真優に驚いた様子を見せることもなく
会議中、真優に対して
長い睫の奥から桐谷遥人が送ってきたのは
あの時のような視線だった。
「…うん」
全てを見透かすような、冷たい視線…。
―― 優しげな笑みを浮かべて
何やらいい香りが漂ってきそうな、とっても甘い雰囲気を醸し出すというのに
…瞳の奥だけは、氷のように冷たくて
「なるほどねー
じゃあ 氷の王子だ」
「え?」
―― 氷の王子?
「そうだね
そんな感じかも…」
真優の脳裏に、
白いゴージャスな毛皮をまとって
氷の馬車にのる桐谷遥人が浮かんだ。
そして、その氷の王子は、
ニコリともせずに
真優を見下ろしていた…。