恋する淑女は、会議室で夢を見る


次の日、真優は夕べ食べずに取っておいた最後の一粒のチョコレートを食べた。

…美味しい


予定はなくなった。

紅茶を飲むと、ソファーから立ち上がり、真優は外を眺めた。
広い庭園の一角、
母が大切にしている薔薇園で、母とユキが薔薇を切っているのが見えた。

ピークは過ぎたが、まだまだ沢山の薔薇が美しい花弁をほころばせている。

…そういえば夕食に合わせてお客様がいらっしゃるんだっけ
あの薔薇をどこかに活けるのだろう…


そして真優はボンヤリと空を見上げた。


――あの時、送別会でマー先輩は、

”君の両親の前に出ても恥ずかしくないだけの自信がついたら迎えに行く
 そうしたらまた一緒に映画を見よう”

本当にそう言ったのだろうか?…
高橋くんにも言われた通り、私はそういうことには鈍感かもしれないとは思う。
でもあの時、いくら聞こえなくても
マー先輩が本当にそう思っていたなら、何かそういうものを感じたはずじゃないだろうか?

マー先輩の瞳は後輩を見る優しい瞳で
”真優、真優が大人になったら連絡して
 そうしたら また一緒に映画をみよう”
そんなことを言ったんじゃないだろうか…

携帯電話の番号…

そう、卒業しても元々のマー先輩の番号は、アドレスから消してはいなかった。
真優の電話番号も変えていないのに
何の連絡もなく、マー先輩は新しい電話番号に変えていた。



あの時感じた違和感…



多分、そういうことなんだろう――





…これで終わった

   初恋からの卒業だ…



――専務

”その初恋の記憶の中に このキスも入れたらいい”

専務のキスは、マー先輩の初恋の中には入れてあげない…。


クスッ





―― あ、そうそう


真優は月曜日に専務のお弁当を持っていくことを思い出した。

「こうしちゃいられない
 何を作ろうかな」


本棚からお弁当の料理本を取り出した。


フフッ
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