恋する淑女は、会議室で夢を見る
それから時計の針がグルグルと回って、
太陽が傾き、西の空がオレンジ色に変わる頃…
青木邸に向かう、一台のリムジンがあった。
BuBuBu
微かに揺れたスマートフォンが、メールの着信を告げた。
送り主は、青木真優。
メッセージは…
”専務、
好きな食べ物と嫌いな食べ物は何ですか?”
クスッと笑った桐谷遥人は、少し考えて
”好きな食べ物は美味しいもの
嫌いな食べ物は不味いもの”
と、返信した。
真優からすぐに来た返信には、怒った顔の絵文字が1つ。
クックック
「遥人、それで真優さんには言ってないの?」
「ええ、なにも
職場で言うのは不謹慎ですからね」
スマートフォンをポケットにしまった遥人は、澄ましてそう答えた。
「…あらそう
で、断られたらどうすの?」
「大丈夫ですよ
断られたりしませんから」
桐谷遥人の母、紗枝は
目を丸くして眉をひそめて左右に首を振る。
「呆れた」
「青木さんには真優ちゃんには内緒って言ってあるんだよ
驚くだろうね~」
横からそう言ったのは遥人の父、桐谷遥己だ。
「まあ、あなたまで」
今度は夫の遥己を振り返って、
紗枝はまた呆れたようにため息をついた。
「呆れた
まったくもぉ
こんな風に押しかけのお見合いなんて、
青木さんに申し訳ないやら恥ずかしいやら」
「お見合いじゃなくて、結婚の申し込みだからね」
「いいじゃないか、青木さんだって
”真優が驚く顔がみたい”って喜んでたよ」