恋する淑女は、会議室で夢を見る
*...*...*...*...*
「…専務
セクハラですよ?」
チュっと私の額にキスをした専務が、クスッと笑う。
「いや、君の勤務時間はもう終わったから
セクハラじゃないな」
先週末の夕暮れ、
専務はご両親と一緒に、大きな花束を持って家にやってきた。
『… 専務?
どうしたんですか?』
専務はまるで、珈琲でもいれてもらおうかな、とでもいうような気軽な調子で
『うん
君と結婚したいなぁ、と思ってね』
そう言って、ニッコリと微笑んだ。
それを聞いた私は、意味が呑み込めなくて
ただ唖然とするしかなくて…
『いやなの?』 と、少しだけ首を傾げる専務を、
見上げてた。
あの夜、起きたことのなかで、はっきりと記憶しているのはそれだけ。
着ていた振袖の帯がきつくて、頭がボーっとしてしまったせいなのか
あれから何を食べて何を話したのか、よく覚えていない…。
でも、どうやらあの日のうちに婚約までしたらしく、
いつの間にか私は、桐谷専務の婚約者になっていた。
あれから指折り数えて、今日は、金曜日。
専務の仕事が終わったら、ホテルのレストランで2人で食事をすることになっている。
早く行かないと予約に遅れちゃう…
―― それに…
「ねぇ専務
専務室でこんなことをしたら…」
――いけないんですよ、というその後に続く言葉は、
専務の唇に吸い取られていく…
… 専務のキス
甘いキス
専務はゆっくりと唇を離した。
本当は離れたくなくて、キュウキュウと苦しい胸の痛みをあやす様に
専務が、私の額にかかる髪を撫で
「真優、愛してるよ」
と、微笑んだ。
あぁ…
これは夢じゃありませんように
夢なら覚めませんように…
専務
桐谷専務… 大好きです。