恋する淑女は、会議室で夢を見る
―― 恋人かぁ
真優は大学1年の時、
マー(匡・マサシ)先輩という一つ年上の先輩と付き合ったことがある。
時々映画を鑑賞して感想を言い合って楽しむだけの
サークルの先輩と後輩の間柄だった。
真優はマー先輩ととても気が合って
一緒にいると時間も忘れるほど楽しかった。
時々2人だけでも映画を見に行ったりするうち
マー先輩に『俺たち 付き合わないか?』
お前が好きだ、と告白された。
真優は先輩のことは好きだったし、先輩は素敵な人だったし
映画みたいな恋をしてみたいっていう憧れもあって
そのまま付き合うことになった。
付き合うことになったからと言って、何かが変わったわけではなかった。
映画を見に行ったりディズニーランドに行ったり
普通の恋人たちのようにデートはしたが、
ただ楽しく遊んで、さよならするだけだった。
そしてある日、
来るべき日が来たのである。
夜になり、
いつになくちょっとおしゃれなお店に連れていってもらって食事をした後、
先輩の誘いのまま、海が見える公園を散歩して
夜景が映る海を見ている時だった。
マー先輩が、真優の体を引き寄せて、キスしようとした。
それは
マー先輩が
男に変わった瞬間だった。
その時、真優は
急に変身した先輩に軽い嫌悪感を覚えて
思い切り横を向いて避けてしまったのだ。
その後先輩は、
ちょっと悲しそうな顔をして海を見ながら
『俺 お前にとって何なんだろうな』って言ったけれど
真優はその問いに答えることが出来なかった。
それから、マー先輩とはなんとなく気まずくなって
段々誘われなくなって
いつの間にか先輩は、
真優の恋人ではなくなった。
こうして真優の初恋?は、あっけなく終わってしまった。
先輩は素敵な人で、大好きで
ときめくようなドキドキするような気持ちになったのは間違いないのに
どうしてあんなことになってしまったのだろうと
真優は悲しく思う。
それからも何度か
同級生や先輩に付き合ってほしいとか告白されたことがあったのに、
真優はその都度、その人とのキスを想像し
その彼が男に変身した時を想像してはゾッとしたりして
適当にごまかしたりして申し入れを断った。
絵理や他の友達には
『まったくもー真優は子供なんだからぁ
一生処女でいるつもり?』 と、笑われたけれど
また同じことをして
相手を傷つけてしまいそうで、自信がなかった…。
それからずっと
今だにキスもしたことがなく
真優は、ちゃんと?男の人と交際したという経験がない。