恋する淑女は、会議室で夢を見る
その日の午後
仕事がひと段落した真優は、
センチメンタルな気分に居たたまれなくなって、席を立った。
―― そうだ 上の階の休憩コーナーに行こう
その休憩コーナーは、役員室と役員専用の応接室が並ぶフロアのすぐ下の階ということもあって、
普段から、あまりひと気がない。
そしてそこだけにある自販機のカップ珈琲は、
一杯毎に豆を挽くところから自動でするというもので
少し高いが、結構美味しい珈琲なのである。
―― いい匂い…
香ばしいコーヒーの薫りをスゥっと吸い込んで、真優は窓辺に立った。
今日は朝からずっと雨で
なんとなく肌寒い。
スカートを履いているせいもあるのだろう。
雨の日になると、歩いて通勤する真優はスカートを履くことにしていた。
ストッキングなら汚しても新しいものに履き替えればいいが、
靴から跳ねた雨水で、パンツスーツを汚してしまうとやっかいだからである。
今日のコーディネイトは、スモーキーピンクのふんわりしたブラウスに
黒のタイトスカート。
少しでも大人っぽく見えるようにと、ユキが選んでくれた。
見下ろした足元には
会社に来てから履き替えたパンプス。
どんなに背伸びをしても、大人になりきれない自分のように
細いヒールが心許なく見えた…。