恋する淑女は、会議室で夢を見る
…初恋の人?
痺れた頭の中に浮かんだのは
―― マー先輩…
公園で真優を抱き寄せた マー先輩だった。
『その初恋の記憶の中に このキスも入れたらいい』
遥人は真優の耳元でそう囁いて
真優の涙を拭い…
そっと
優しく
唇を 重ねた。
氷室先輩と恋人のキスみたいなキスじゃなく
唇が触れ合うだけの優しいキスだった。
初恋のキス
私のファースト・キス・・・
マー先輩…
あの時、私が避けたりしなければ、
先輩のキスも
あんな風に
とっても優しいキスだったの?
…マー先輩
ごめんなさい
ほんとに好きだったのに――
そう思ったら 涙がこぼれてしまった。
「まあ お嬢様・・・」
ハンカチを出したユキに
涙をぬぐってもらったり 背中をさすったりしてもらいながら
そのあとのことを 思い出す。
目を開けた時には もう
桐谷遥人はいなかった。
――あれは夢だったのか?
マー先輩と桐谷遥人のキスが
頭の中をグルグルと交錯する
優しくて
切なくて
真優のファースト・キスは
ほんの少し 苦い珈琲の香りがした。