恋する淑女は、会議室で夢を見る


「それにしても
 お嬢様なのにピアノが弾けないなんて お前くらいじぇねぇの?」

と、氷室先輩がクスクス笑う。

「しかし あのピアノに向かって歩いてくる時の真優
 亡霊みたいだったな」

クスクス笑いが

アッハッハ

しまいに大笑いに変わっていった。



――笑い過ぎですってば




「ねぇ、先輩
 男の人は色んな顔を持つって言うじゃないですか
 仕事の顔と家庭で見せる顔とは違うって
 それって どうなんですか?」

大笑いが終わって、食後のアイスコーヒーを飲む先輩に 
そう聞いてみた。


会議中の冷たい視線、少しふざけた時のいたずらっこみたいな睨んだ顔、
披露宴会場で助けてくれた後の優しい微笑み

真優は桐谷遥人の 色んな顔を思い浮かべた。




「うーん? 色んな顔?
 そんなに変わるもんか?」

「先輩だって
 仕事をしている時と

 …恋人といる時は… 違うんでしょ?」


―― 私 見ちゃったんだから 恋人と一緒の時の氷室先輩
  いつもとは全然違ったし



「恋人?」

そう言った後、
間をおいて

氷室先輩が 少しだけ口角をあげて
唇を舐めた・・・。
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