恋する淑女は、会議室で夢を見る
桐谷遥人の秘書である瀬波は、
もともとは遥人の父、桐谷遥己(きりたに はるき)の秘書だった。
歳は遥人より5歳ほど上で、
入社当時から、抜群の勘の良さと記憶力や判断力
その他あらゆる才能を認められ
遥人の第一秘書になるべく訓練を受けきた男である。
「ちょっと下に行ってくる」
そう言って
桐谷遥人は机の引き出しから
新調したばかりの小銭入れを取り出した。
「珈琲ですか?」
「そう
ここの秘書がいれてくれる珈琲は
はっきり言って不味くてね」
遥人はうんざりしたようにため息をつく。
珈琲は秘書課にいる女性秘書が入れるのだが
遥人の口には合わないらしい。
「…」
「まだ下の販売機の珈琲のほうがいい」
瀬波はそのことも含め、悩んでいた。
常務室には、廊下と常務室の間に秘書席がある。
――そこに誰を置くべきか…