笑顔の行方~バスケットが繋いだ恋~
「なぁ陽泉。ちゃんと家まで送るから、ちょっとだけドライブに付き合って」
駅まで来ると、佐々木くんに誘われた。少し迷ったけど、郁海に"迎えはなし"とメールを送ると、
「うん、分かったよ」と、佐々木くんの車に乗り込んだ。

「帰り、少し遅くなっても平気?」
「うん。明日は休みだし、大丈夫だよ」
「そっか」
そう言うと、高速に乗った彼。
「ちょっと〇〇湖に行くから。…しばらくはこっちに帰って来れないと思うから、見ておきたくて…」
「夜じゃなく、昼間の方が良く見えるんじゃないの?」
「いや、夜…と言うか、今でいいんだ。陽泉と一緒に見たいから」
「えっ…?」
「一緒に行ったことはなかっただろう?〇〇湖には。
だから、思い出作り」
「……………」

"思い出作り"
その言葉に、もう佐々木くんとは会えないと思うと淋しくなった。
だけど、私にそんなふうに思う権利はない。
佐々木くんではなく、祐介を選んだのは私なのだから。

それから〇〇湖に着くまで、私も彼も、何もしゃべらなかった。

〇〇湖の駐車場に着き車を降りると、やはりちょっと肌寒い。
それもそうだよな。
明日からは10月なんだから。

「少し歩こう」
そう言う佐々木くんの後ろをついて歩く。
ちょっと手を伸ばせば、すぐに彼に触れられるのに、その距離がすごく遠く感じた。



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