笑顔の行方~バスケットが繋いだ恋~
「祐介さん」
不意に声をかけられた。
だけど俺は、声の方向を見ることも出来ない。
しかし、その声は続いた。
「こういうときは、我慢しないで思いっきり泣いた方がいいんだよ。
祐介さんが泣かなくなるまで、私がそばにいるから。
陽泉の代わりに、私がいるから」
声の主は紗枝ちゃん。
陽泉の親友の、青山紗枝ちゃん。
彼女が俺に好意を寄せてくれていることは気づいていた。彼女のその気持ちに、俺は気づかないフリをしていたけど、もうそういうわけにはいかないな。
俺とヒナの間に、彼女の存在があったから、俺はヒナのそばに居続けることが出来たのだから。
俺の中で、いつの間にか、彼女の存在は大きくなっていたのだから。
俺は彼女の方へ手を伸ばし、彼女の手を握った。
彼女がピクッとしたのが分かる。
「…ありがとう、紗枝」
俺は初めて、彼女の名前を呼び捨てで呼んだ。
これで、俺の気持ちが伝わるだろうか?
「…うん」
頷きながら彼女は、俺の手を強く握った。
しばらくそうしていながら、俺は思った。
近いうち、俺の隣にはヒナじゃなく、紗枝がいることが当たり前になるだろう。
そして、それは一生続くのだろうと。