残業しないで帰りたい!

話しかければいいだけなんだけどね。

でも、彼女に話しかける勇気はない。
何を話していいのかわからないし、声をかけて嫌な顔をされたり、嫌われたりしたら耐えられない。

傷つきたくないんだ……。

本当にバカみたいだな。
傷つきたくない、なんてそんなこと、こんな年のオッサンの考えることじゃない。

いや。
こんな年だからこそ、傷ついたらもう取り返しがつかないくらいダメージを受けそうな気がするんだ。

俺、本当にどうしようもないな。

本当は毎日休憩室に行って青山さんの様子を見たかったけど、他の女の子たちが寄ってくるのは嫌だから、その後は時々休憩室の自動販売機で飲み物を買いつつ、こっそり様子を眺めるくらいだった。

見ていると、いつも彼女は手作りの弁当を食べているようだった。
早起きして作ってるのかな?
偉いなあ。

はあ……、可愛い。
あの頬に触れたい。

……。

……なにが触れたいだよっ。
話しかけることすらできないくせに、触るなんてできるわけがない。

でもまあ、欲しい情報は得られたし。
青山さんに男がいなくて興味がないなら、それで十分!

あとは彼女に悪い虫が付かないよう、遠巻きにグルグル見張っていよう。

……俺って本当にストーカー気質だなあ。

無理に用事を作って営業課に行っては、青山さんの様子を眺めたりして。

青山さんが動いてる。誰かと話をしてる……。
やっぱり可愛いなあ。
そんなことを思って、一人で密かにデレッとしたりして。

時々一人でのんびりサボりたくて、非常階段で煙草を吸う時も、あえて営業課のある7階まで行って煙草を吸った。

おかげで、横浜支社の7階からは冬になると富士山が見えることがわかった。
< 108 / 259 >

この作品をシェア

pagetop