残業しないで帰りたい!
(3)君を見ているだけじゃダメだと知った
久しぶりに弟の遊馬から連絡が来た。
なにやら面白いものを見つけたから店に来いと言う。
遊馬は3年前、横浜に店を構えた。
俺と違ってやる気のある男だ。
俺と遊馬は見た目だけはそっくりだけど、性格は全然違う。遊馬はとっくに結婚して子どもだっているし。
それに遊馬はせっかちで常に体を動かしていたいらしい。
きっと、父親に似たんだろう。
遊馬はずっと横浜の隣にある川崎に住んでいる。
子どもの頃、両親が離婚して母親に引き取られた遊馬は、川崎にある母親の実家に住むことになったからだ。
大人になってからも、母親が死んだ後も遊馬はずっとその家に住んでいた。
横浜に店を出してからは川崎から横浜まで通っていたらしい。
でも、さすがに不便だったらしく、この度川崎の家を引き払って横浜に引っ越すことにしたと聞いた。
遊馬の店はいつも混んでいて繁盛しているから忙しくて大変なんだろう。
遊馬の店は俺もかなり好きだ。店の雰囲気は落ち着いているし、心配りが行き届いてる。
なかなかいい趣味してると思う。
味もうまいし。
自慢できる店。自慢の弟。
自分の弟が自慢だなんて、どうなんだろう。それって普通なのかな?
それとも、長いこと離れていたからそんな風に思えるんだろうか。
でも、俺の心の片隅には遊馬を好きになれない自分もいる。
バカみたいだけど……。
母親は俺を捨て、遊馬を選んだ。
母親は俺のことは平気で捨てても、遊馬のことは捨てられなかったんだ。
そんなくだらない大昔の嫉妬心を、消えそうで消えない熾火のように心に持ち続けていた。