残業しないで帰りたい!

制服だから着替えてから帰るんだよね?

こんな時間に彼女を一人にさせたくない。それに私服姿を近くで見てみたい気持ちもあって、さりげなくそのまま待つことにした。

彼女の私服姿は何度か遠くから見たことがある。いつもパンツスタイルで、スカートをはいているところは一度も見たことがない。

スカート、好きじゃないのかな?今日もカジュアルな感じ?

そんなことを考えながら腕組みをして待っていたら、青山さんが更衣室から出てきた。

あー、やっぱりカジュアルだね。
かなり若々しいなあ……。

……非常に年の差を感じる。

「あれ?」

青山さんは待っていた俺に驚いて、目を丸くした。いいなあ、その顔もすごく可愛い。

「着替え終わった?」

「はあ」

「じゃ、帰んなさい」

「……何してるんですか?」

「待ってたの。こんな時間に一人で着替えてたら、危ないでしょ」

「そう、でしょうか?」

目をクリッとさせて首を傾げる彼女。

もー!その顔もたまんない!
こんなに可愛い君が着替えてるのに、一人で置いておけるわけがないじゃない!

エレベーターが来ると、彼女はぺこりと頭を下げたから俺は手を振った。

「気をつけてねー」

「はーい」

エレベーターの扉がガコンと閉まった。途端に廊下はシンと暗く静かになる。

……はあっ。

ドッと力が抜けた。
なんか……あっという間だった。

ため息をついて胸に手を当てる。

俺にしては大健闘だったんじゃない?

だって、たくさん見つめてしまった。
たくさん喋ってしまった。
すごくすごく可愛かった。

目が合った瞬間は異次元に感じた空間も、溶け込むように当たり前になって、包み込むように柔らかくなった。

あの感覚をもう一度感じたい。
もっと彼女に近づきたい。

遠くから見ているだけなんて、もう耐えられないよ。
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