残業しないで帰りたい!
帰り際、送ると言ったら断られたけど、落ち込んで見せたら彼女は気にして「じゃあお願いします」と言ってくれた。……いや、言わせた。
優しい彼女は俺が落ち込むと気にしてしまうのか、おろおろして最終的には折れてくれる。
その姿は可愛いこと、この上ない。
そんな彼女の優しさを利用するなんて、俺は救いようがなく腐っている。
彼女を送るために一緒に乗った電車はぎゅうぎゅう詰めで異常に混んでいた。いつもならこの時間はもっと空いているのに……。
みんな同じ黒いタオルなんか持っているから、アリーナかスタジアムでコンサートでもあったんだろう。
誰のコンサート?
年齢層では判別できないなあ。
熱気のこもった満員電車を気にする様子もなく、彼女は扉の窓からぼんやりと外を見ていた。
何を考えてるのかな?
電車の揺れに流されて押し寄せる人の波から彼女を守ろうと、トンッと扉に腕を突っ張ったら、背中から人々の圧力を感じて、腕の中に囲う彼女を守れているような気がした。
俺は単純だ。
それだけで君を守る強い男になれたような誇らしい気持ちになる。
君は全然気がつかなかったけど。
それでもかまわない。
君が気がつかなくても、俺は君を守るよ。
でも、考えてみたら、君を守るなんてただの自己満足なのかもしれない。
本当に守るってどういうことなんだろう。
俺の嫉妬深く偏った発想では、他の男から守ることくらいしか思い浮かばない。
でもそれって、彼女のためでもあるけれど、どっちかと言うと自分のためなんじゃない?
だって、他の男に触られるなんて、俺が耐えられない。
俺の守り方はもしかしたら間違っているのかもしれない。
それでも、俺は君を守る。
絶対に君を大切にする。
そう心から誓った。