残業しないで帰りたい!
もうずいぶん昔の話だけど、藤崎くんと付き合ったのはいまだに失敗だったと思ってる。
いい思い出なんて一つもないし、いつまでたっても「王子と付き合ってた女」ってレッテル貼られるし。
ホント、ムカつく!
昨日久しぶりに会ったら、ビックリするほど見た目が全然変わってなくて、それもなんかムカついた。
同い年なんだから、アンタだって35でしょ?もうオッサンのはずじゃない!
それなのに。
なによ、その変わらない若い感じ。肌とかもっと老けててもいいはずなのに。
王子様オーラも健在で……。
コイツを見てると、なんか自分ばっかり老け込んでいる気がして嫌になる。
それに、出世なんて興味なさそうにしてたくせに、ちゃっかり管理職試験受けて、私より先に課長になってるし!
しかも、なに?
今日は呼び止められたと思ったら、昨日の件のお説教?
「女の子をダシに使って契約とるなんて、もうやめてよ。それも、閉じ込めて連中に差し出すなんてあり得ない!青山さんは営業じゃないんだ。青山さんには近付かないでくんない」
なによそれ!
私のやり方に文句があるっていうの?
……いや、本当は自分でもちょっとやり過ぎだと思った。
でもっ!
横浜に飛ばされたヤツになんか言われたくないんだけどっ!
それにその喋り方!
抜群のイケメンのくせに、相変わらずぬるい喋り方してさっ。
でも、腹が立つのはそれだけが理由じゃない。
アンタがこんなに一生懸命になって話すとこ、初めて見た……。
昨日も応接室の前で、私を思いっきり押し退けたりして。付き合ってた時は自分から触ることもなかったくせに。
あの大きな手に押されて、ちょっとドキッとしちゃって……。
私、バカみたいじゃない!
ドキッとしてる私のことなんて見向きもしないで、アンタはあの子のことだけをまっすぐ見つめて駆け寄った。
そんな姿を見たら、もう忘れた大昔の恋なのに、辛かった胸の痛みがほんの少しだけピリッとぶり返した。