残業しないで帰りたい!

藤崎くん、倒れちゃったりするあの子のか弱い様子を見て、守ってあげたいなんて思うの?

あの子ホントにか弱いのか?演技じゃねーの?

でも……あの時あの子、本当に気を失ってた。倒れた時に怪我までさせちゃったし、演技じゃなさそうだよね。

私も今回はさすがに少し反省した。
……言葉にはしないけど。

昔は、反省すらしなかった。

なんかトラウマがあるにしたって、そんなの普通は乗り越えるだろ!なんて思ったりして。
人にも自分と同じスペックを求めて、同じようにできないことが許せなかった。

でも、世の中にはいろんな人がいる。いろんな出来事がある。
みんながみんな、同じようにできるわけじゃない。

頭ではわかってるんだけどね……。

実際、仕事となるとつい同じものを求めて厳しくなっちゃうんだよなー、これが。

「あと」

「?」

「名前憶えてなくてごめん」

「!」

なにそれ?
今、それ言う?
っていうか、アンタそんなこと憶えてたんだ?

「今はもうわかるの?」

「……」

「?」

「……ごめん」

「はあっ!?」

わかんねーのかよっ!
じゃあ、そんなこと言うなよっ!
このボケ!どアホッ!
ちゃんと憶えてから謝れ!

ムッカつくーっ!!

「さよならっ!」

プリプリしながら、膝に響くぐらいにヒールの音をガツガツと立てて歩いた。それでも全然気が済まない。

あーっ!もうっ!

ほんっとムカつく!
あんなヤツと付き合ってたなんて、人生の汚点だ!

今夜はとことん飲んでやるっ!
誰に声かけよう……。

んー、吉岡にでも声をかけるか。若いイケメンでも見て癒されようっ!

っと、その前にトイレに行こっ。

あの狭い空間にこもりたい。今はあの心地いい圧迫感に癒されたーい!
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