残業しないで帰りたい!

「加藤っ!なにこの報告書?何が言いたいのか全然わかんない。やり直しっ!去年のデータベースに資料があるから、参考にしなさい。それから杉江、データまとまった?」

「は、はい」

杉江がおそるおそる資料を差し出してきた。

「できてるんなら、さっさと提出!」

「すんません」

「……このデータ、こことここの年度が間違ってる!こういうくだらない凡ミス、ホントやめてちょうだいっ!」

「す、すんません!」

杉江はそそくさとパソコンに向かった。

東京本部に戻ってからも、私のイライラは続いていた。

ったく、ホント男って使えない。
頭のいい男っていないのかしら。

そういえば、この間、同期の中嶋に会った。

中嶋は女の同期の中で嫁行き遅れ仲間の一人。いや、唯一の一人……。

中嶋は仕事ができる頭のいい女だと思う。大阪で係長をやっているが、この間東京に出てきたついでに一緒に飲みに行った。

二人して、仕事ができない男どもの愚痴で盛り上がってしまったけれど、私は密かにだんだん中嶋が派手になってきていることが気になっていた。

まるで自分を見ているみたい……。

化粧が濃くなって、ブランド物のバッグを持って、腕時計も自分へのご褒美とか言って買っちゃった高級品を付けていたりする。

しかもアンタ、まつ毛エクステしてる?もっとナチュラルなヤツ、なかったの?なんか針金みたいだよ?
私はそこまでしてない……なーんて、くだらない優越感を持ったりして。

中嶋、オバサンになってきてるよ。
でもそれはきっと、私も同じ……。

いやいや、ダメダメッ、そんなの!
このままじゃいけない!

もっとナチュラルなメイクにしよっと。
あくまでも、ナチュラルに見せるだけであってかける時間と厚みは変わらないんだけど。

中嶋に会えて良かった。楽しかったし、得るものは多かった。

「またね、中嶋」

「おう、また会お。得るもの多いし」

二人でクフフと笑いあう。まあ、お互い様ってことだ。

アンタはいい友達だよ。
ずっと独身でいてくれっ、中嶋っ!
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