残業しないで帰りたい!

約束の金曜日。「たまには残業しないで帰りましょう」なんて言われて、ホテルの最上階にあるレストランにやって来た。

夜景がとっても綺麗。思いのほかロマンチックな雰囲気。

「すごーい、スカイツリー綺麗に見えるね!」

「先輩、ここに来るの初めてなんですか?」

あ……、しまった。はしゃいでしまった。
確かにここに来るのは初めてだけど。

見栄をはって他の男と来たことにしたかったのに、今のはしゃぎっぷりじゃ、もう取り繕えないよね?

「……うん、初めて」

「ほんとですか?嬉しいなあ」

まあ、アンタが来たいって言うから来たんだけどさ。

「今度は彼女と一緒に来ればいいじゃない」

そう言ったらわずかに胸がチリッと痛んだ。

自分でもそれがどういうことかはわかってる。
まあ、そういうもんさ。
そういう痛みも右から左に受け流せるくらいの年齢なんだよ、私は。

吉岡はちょっと黙って、不機嫌そうに口を開いた。

「俺、彼女なんていません」

あ、そうなんだ。ふーん、意外。それってホント?
イケメンなのにねえ。

「先輩は、付き合ってる男、いないんスか?」

なによ、デリカシーないな。普通に聞くなよ。いないなんて、答えづらいんだよ!

「……今はいない」

このところずっといないけど、プライドが「今は」なんて言葉を付け加えてしまった。

「俺、課長試験受かったら、絶対に実行しようって決めていたことがあるんです」

ん?私の男がいないって話はもう終わりか?
……簡単にスルーされた。

なんかムカつくけど、いつまでもその話題で引っ張られるよりはマシか。

「何を決めてたの?」

どうせ好きな女の子に告白しようと思ってるんッスよー、とかいう類の話でしょ?
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