残業しないで帰りたい!

私に相談なんかしなくても、アンタなら誰だって落ちるから大丈夫。

自信持って!

そんなことを思っていたら、透明感のある色彩も鮮やかな前菜が運ばれてきた。美味しそう!

まずは食べよっ!
男より食い気!

「いただきまーす」

私の質問に答えない吉岡を無視して、パクッと一口食べたら、フルーツの酸味が爽やかですごく美味しかった。

「おいしー!」

そう言って微笑んだ私を、吉岡は優しい瞳で見つめた。

やだっ、ちょっと。ドキッとするじゃない。
思わせぶりだな。

「吉岡、食べないの?」

「食べますよ」

吉岡も一口食べてニコッとうなずいた。

「なかなかウマイですね」

「ねっ、おいしーよねっ」

なんか私、柄にもなくはしゃいでると思う。

だって、吉岡との仮想デート、すっごい楽しいんだもん。

あくまでも仮想だけどね。

美味しい食事に会話も弾んで、楽しい時間はあっという間に過ぎてしまった。

最後に出てきたコーヒーを一口飲んでソーサーに置いた時、そういえば吉岡が課長になったら何かする的なことを言っていたことを思い出した。

仕方ないから、相談に乗ってやるか。

「そうえいば吉岡、さっき課長になったら、とか言ってたけど、何だったの?」

吉岡は黙ってうつむいた。

なになに?そんなに悩んじゃってるの?アンタも32だもんね?もしや、本気の恋?
やーね、もう!

吉岡は大きく息を吸うと、胸元から何かを出してテーブルにペタッと置いた。

んっ?なに?
名刺?テレホンカード?

って、そんなわけないか。テレホンカードなんていつの時代の話だろう。我ながら古い。

ん?あれっ……?
まさかそれ、ホテルのカードキー……?
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