残業しないで帰りたい!

「テレホンカードじゃないよ?」

「わかってるわよっ」

耳がじわりと熱くなった……。頬が赤くなってる気がする。

「部屋をとってる」

それがどういう意味なのかは一瞬でわかったけど。

吉岡……、本気なの?

だからホテルのレストランに行きたい、なんて言ったの?

「……決めていたんだ。課長になれたら言おうって」

「……」

「先輩のことがずっと好きだった。最初は憧れて遠くから見てるだけだったけど、もう見てるだけなんて耐えられない」

そういうこと、だったんだ……。
私ったら、これっぽっちも気がつかなかった。ホント、どんくさい女。

真剣な瞳。まっすぐな言葉。
どうしよう、こんなの超久しぶりだよぅ。

「先輩の笑顔をずっと見ていたい。辛いことがあったら、弱音を吐いてほしい。俺には甘えてほしい」

めちゃくちゃドキドキしてる。鼓動が響いて息を潜めるなんて、私としたことが……。

ふと顔を上げたら、私をじっと見つめる真剣な瞳に捕まった。

「もう、トイレに隠れて泣かないで」

「!!」

やだっ!なんでそんなこと知ってんのよ!

「泣くなら俺の腕の中で泣いてほしい」

……古くさい台詞。でも、不覚にもキュンとしちゃう……。

「ダメ?」

私が断らないってわかってるみたいに首を傾げた。……ヤなヤツねっ。

落ち着いたフリをして静かに答えた。

「吉岡、年上が好みなんだ?」

「年上とか関係ない。年上って言っても3つだけでしょ?」

「私、もう35なのよ?」

「気にする理由がわからない」

「……」

「本当は結婚を前提にしてほしい。でも、先輩は仕事もバリバリ続けたいだろうし……。だから、まずは普通にお付き合いしていただけませんか?」

……結婚なんて。
結婚って言葉を使えば、アラサーとも言えない年の女なら、心が揺らぐとでも思ってるの?

仕事を続けていいって匂わせたら、私がなびくとでも思ったの?
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