残業しないで帰りたい!
恐れる気持ちが私を意固地にさせる。
一人で強がってきた女が甘えるなんて、なかなか難しいんだからっ!
甘えないように壁を作って強がってきたのに、一度崩れ始めてしまったら、きっともう止めることなんてできない。
だから怖いのに……。
めちゃめちゃ揺らいじゃってるよぅ。
急にタメ口混じりなってるのがさっきから気になってるけど、なんかもうだんだんそんなの、どうでもよくなってきた。
その真剣な瞳がいけないのよっ!
そんな瞳で見つめられたら、借りてきた猫みたいに大人しくなる。
あーもーっ!ヤバい。涙出そう。
年下のくせに、私の心をかき乱すなんて。
キュンとして痺れる胸の痛みを隠して、フウッとため息をつき、見下すような表情を作った。
「しょうがないわね。いいわよ、付き合ってあげても」
「良かった」
吉岡はフッと笑うと、テーブルに乗せていた私の手を包むように握った。
ドキッとして見上げると、その切れ長な目が妙に男っぽくてドキッとする。
「そういう強がりもいいけど、可愛いところも俺は見たい」
「……」
親指が手の甲をスーッと滑る感触にゾワッとしてキュンとした。
「俺の前では強がるな」
……なによ。
さっきまで仔犬だったくせに急に強気な感じ。でも、そうだよね?コイツは元々強気な男。
……こういうの、嫌いじゃない。
いや、ホントはすごい好き……。
私、やっぱり強気な男が好きみたい。強気な男に甘えたい。
もう私、崩れちゃう……。
「愛」
「……」
私の名前を呼んだその声は、甘く響いて胸に刺さった。
「俺には甘えて。今夜だけじゃなく、ずっと」
ドキドキして息を潜める。
潤んだ瞳を見せたくなくて、思わずうつむいて目をそらした。
名前を呼ばれたくらいでドキドキするなんて、私としたことが……。
年下のくせに、私をこんなにキュンとさせるなんて。
もうっ……。
ホント、ムカつく。
【 ホント、ムカつく 久保田愛 】