残業しないで帰りたい!
(1)君と出会う前の俺はろくでなしだった
3年前、課長昇進と同時に横浜支社に飛ばされてしまった。
しかも人事課。
俺、営業しかやったことないんだけど……。
人事課長なんて何をすればいいのか、見当もつかなかった。当然やる気も出ない。
それに今までは外回りでいつも社外に出てたのに、じっと室内で仕事をするなんて、狭い部屋に閉じ込められているみたいで、最初は本当に耐え難かった。
それに加えて、大阪とか、札幌、福岡なんかの地方中枢都市ならまだしも、横浜って中途半端なんだよなあ。
東京のすぐ隣だから、常に二番煎じな印象。
それなのに、横浜出身の人って横浜に思い入れが強い。ブランド意識が高いというか、横浜にプライドを持ってる。
労務管理係長の大塚がこれに当たる。地元横浜をこよなく愛する男。
大塚は神経質なところがあって真面目な男だけど、悪い奴じゃない。でも、横浜好きなのだけは若干うっとうしい。
飛ばされたというのもあるけれど、俺はどうにも横浜という土地を好きにはなれなかった。
あーもう、なんで横浜なの?その上営業の仕事まで取り上げられちゃったし。
嫌がらせにもほどがあるよ。
東京本部の越川本部長は俺のことが嫌いだ。
いきなり課長試験に推薦されたから、言われるままにホイホイ受けてしまったけれど、俺を課長にしたのは横浜に飛ばすためだったのね?
やられたなあ。
何やってんだろう、俺。
課長になんかならなくてもいいから、俺は営業を続けたかった。
本当に悔しい。
態度も喋り方も目立たないように気を付けてたのに。
こんな嫌がらせをされるなんて、バカバカしすぎて考えてもみなかった。
俺もしつこい方だけど、いくら嫌いだからって越川本部長の執念って気持ち悪いよ。