残業しないで帰りたい!
(2)君は俺の存在に全く気がつかなかった
横浜支社に戻ってからも、俺の気持ちが変わることはなかった。わかっていたけど、一時的な気の迷いとかそういうことではなさそうだった。
だから、研修を終えて配属されてきた彼女をずっと目で追っていた。
男の新入社員と総合職の女の子は1ヶ月間の研修があるけれど、一般職の女の子たちは2週間で戻ってくる。
それって差別的だなあって前は思ってたけど、今回は青山さんが2週間で戻ってきたから嬉しくて、いい仕組みだなんて思ってしまった。
新人たちは研修が終わると、今度は実際に配属された支社に散って、支社内の説明やら労務管理の説明なんかを受けることになる。
横浜支社では人事課の健康管理係長、平林さんが説明を担当している。平林さんは健康管理の他に、研修や社内のハラスメント相談窓口も担当しているからだ。
今回横浜支社に配属になった一般職の女の子は2人だけだったから、平林さんは会議室を使ったりはせず、こじんまりと自分の机の前に2人を座らせていろいろ説明してるようだった。
遠くからその様子を眺める。
あの説明、俺がやりたかったのになあ。
青山さんに近づきたいっていう下心だけで、平林さんに「君も忙しいだろうから、支社のこととか労務の煩雑な説明は俺がしてあげるよ」って笑顔で言ったら、眼鏡女子の平林さんは眼鏡をスッと中指で上げて冷たい視線を向けてきた。
「うちの支社のこと、何もご存じないくせに余計なことなさらないでください!」
……あらあら。
ピシッとお断りされてしまった。
まあ、その通りだけどさ。俺もここに来て1年も経ったし、だいぶわかってきたつもりだよ?そんな無下にしなくてもいいじゃない……。
結局俺は、青山さんに近づくこともできず、遠くから頬杖をついて、ぼさーっと眺めることしかできなかった。