さくら
志信が床に腰を降ろし、桜子を自分の足の間に入れて抱き寄せた。
「桜子・・・・・」
栓の壊れた水道のように涙を流す桜子の背中を、まるで子供をあやすようにポンポンとリズムをつけて叩く。
今までとは違った意味の抱擁。
桜子には今起こっていることが夢なのか現なのかよく分からない。
欲しくて、欲しくて、欲しくて、でも言えなくてーーーーーー。
どれほど志信の温もりが恋しかったか・・・・・。
数え切れないほどの溜息と一緒に飲み込んできた可哀想な桜子の志信への恋心がまた息を吹き返す。
すっぽりと包みこむこの腕の中は世界でいちばん安心できる。志信の背中にそっと手を沿わせる。
桜子の頭の上に小さな吐息が落ちてきた。
「桜子、顔見せて」
初めての甘い声。