さくら
「す、すいません」
桜子が慌てて頭を下げた。顔を上げると優しい瞳に見つめられていることに気付く。
「あの・・・・・?」
足元には小さなスーツケース。具合が悪くて医院に来た人ではないようだ。瞳の奥に不思議な色が見える。
何かを懐かしむような、愛しむような・・・・・。
「ほんとに桜の精みたいだ」
その人が瞳を細めた。
「真野のおじさん?」
リビングの掃き出し窓から志信が声を掛ける。
「志信か?すっかり大人になったなあ」
「え?ホントに!?」
志信が勢いよく中庭に飛び出してきた。
「もう20年以上会ってなかったか?」
「最後に会ったんはオレが小学生やったからそのくらいにーーーー」
突然、志信がはっとしたように言葉を切る。桜子が不審に思い志信の方を見上げると何かに気付いたような表情でじっと真野を見ていた。
「・・・・・そうか、親父が待ってたんは真野のおじさんやったんや・・・・・」
一瞬、桜子に微笑んだ志信が真野と呼ばれた紳士を促して聡志の部屋に案内して行った。