さくら
あの人が暫く滞在すると言っていた院長先生のお友達かと桜子が思い至る。
お茶の用意をしないと・・・・・キッチンに桜子が向かうと聡志の昼食のトレイを下げてきたウメがいた。
「ウメさん、先生にお客様みたい。日本茶でええかな?」
「どちら様やろか」
「しーちゃんが『真野のおじさん』って呼んではった」
客用の茶器を食器棚から出しながら桜子が答える。ウメが食器を洗う手を止めた。
「・・・・・桜子ちゃん、わたしがお茶を運ぶわ。真野先生懐かしいわあ」
どうやらウメとも面識があるらしい。
「そう?お願いします」
桜子が入れたお茶をウメが運んで行って、ひとり残ったキッチンで何故か桜子の胸がざわりと震える。
少しぼんやりしていたらしい。
後ろから腰に回された手に引き寄せられて背中にあたる熱に気付いた。
「しーちゃん・・・・・?」
「どした?ボケっとして」
「お客様、ええの?」
首を後ろに回して志信の顔を見る。
「ええよ、年寄りが昔話に花を咲かせてるから」
志信がチョンと桜子の唇を啄んだ。
「しーちゃん!」
顔を真っ赤にして桜子が志信を咎める。
「桜子は可愛いなー」
志信が桜子の身体の向きを変えて胸に抱き込んだ。
「しーちゃん、誰かに見られたら・・・・・」