さくら
「誰に見られても構へんよ。隠すことなんかない」
身体を苦しいほど拘束する志信の体温が桜子には心地よい。この胸の中で、この腕に囲われている限り、きっと苦しいことも悲しいことも乗り越えていける。
「・・・・・しーちゃん、大好き」
志信が口元を緩めて桜子を見つめた。
「桜子」
また唇を軽く啄まれる。
「辛くて言葉が出ないときも悲しくて泣くときも嬉しくて笑うときも全部オレの傍にいろよ」
志信が桜子をまるで幼い子供に言い聞かせるように抱きしめて背中をゆっくり摩った。
午後の診療が始まる前に桜子は夕食の準備をし、ウメに後のことを頼んでおく。
真野は聡志の部屋から一歩も出て来ない。
志信の話だと20数年ぶりだということなので、積もる話もあるのだろう。
真野は聡志の中学からの同級生で、やはり医師で、作家でもあると志信が教えてくれた。
午後の診療を終えて、遅い夕食を取って、志信が聡志の様子を見てからお風呂に行くとリビングを出ていく。
桜子は後片付けを終えて、ソファーに腰をおろしてほっと一息ついた。
なんだか今日は訳もなく心が波立つ。
リビングのドアが静かに開けられる音がした。
「しーちゃん?」