さくら
そこに立っていたのは真野だった。
「あ・・・・・真野先生」
真野が微かな笑顔を見せる。
「お茶でもいれましょうか?」
「・・・・・そうやなあ、紅茶でもいただこうか」
「はい」
桜子が丁寧に入れるアールグレイの香りが、言葉もなくリビングで向き合う2人を包んだ。
「お砂糖とミルクは?」
「いや、そのままで」
真野は束の間自分の前に置かれた紅茶を見詰め、手に取って口に運ぶ。
ええ香りやな、と小さく呟いて今度は桜子に眼差しを向けた。
柔らかくて優しい眼差しだった。
「・・・・・・・・・・未散ちゃんにそっくりや」
何故だかその次に続く言葉を知っているような気がする。
桜子の倍速でうつ心臓の鼓動が、真野の紡ぎ出す言葉を教えてくれるような気がする。
真野が紅茶を静かにローテーブルに置き、頭を深く下げた。
桜子は指先が真っ白になるほど両手を組む。
「僕はきみの父親です」