さくら


2人の間にどんな障害があって、未散が逃げるように姿を消したのか。

いずれ事情は明らかになる。

ただ今は腕の中の頼りない愛しい桜子を安心させてやることの方が大事だった。

桜子を促して2階の自分の部屋に入れ、ベッドに座らせる。志信も横に座り、桜子の細い肩を抱いた。



「一人で悩むなよ」




桜子の目尻から一筋、涙が滑り落ちる。




「いつもいつもお前は我慢して何にも言わへんからな」



志信が桜子の頭に軽く口付けた。




「しー・・・・・ちゃ・・・・・」




桜子が志信の胸に縋り付く。分からない、分からないと譫言のように呟く桜子を志信もきつく抱きしめる。


急に現れた「父」と名乗るあの人は誰?桜子の心の中に湧く疑問や戸惑い。




「・・・・・桜子が分からない、知らないって言うならそう言えばええ。無理して笑って全て受け入れんでええんや」


志信の胸がどんどん湿っていき、聞こえてくる低い嗚咽。
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