さくら
十一
全ての知り合いから身を隠すように離島の診療所に行ったのは25年前。
親友の聡志とさえ連絡を絶った。
のんびりとした時間の流れに身を置いて、島唯一の医師として働き、気まぐれに小説を書いた。
60を過ぎて、そろそろ医師はリタイアしようかと考えていたところに突然聡志からの連絡。出版社から糸を手繰って連絡をしてきたらしい。
『大事な話がある、すぐに京都に来い。ぼくが生きているうちに顔を見せろ、あんまり時間がないから急いでな』
長い時を経て、再会した聡志は病床にいた。間に合うて良かったわと笑う聡志の口から語られる26年前の真実。
住込みで看護師をしていた未散。
聡志の家に遊びに来る度、愛らしい笑顔を向けてくれた。
一回りも年下の彼女のことが本気で好きだった。
だから彼女が急に誰にも何も告げず、姿を消したときには気も狂わんばかりに心当たりを、思いつく限りを探し回った。
本気で自分から離れて行くつもりで何の痕跡も残さず失踪したのだと知ると、真野の心は空っぽになってしまった。
未散の居た場所にいるのが辛くて、何処か遠くに行こうと決心した。